コースの上で必要な「飛距離」の話
毎日のように早朝や薄暮プレーをしていると、ラウンドそのものがある種の実験のように
なってくるものらしい。
例えば、パー3でドライバーを使ったり、様々な仕様のクラブを持ち込んで試したり。決して、その日、いいスコアで上がるためだけにゴルフがあるわけではない。マーク金井のゴルフとの付き合い方は、そんな感じである。
ある時は“グリーンに乗ったらミスショットです!”と言いながら、赤羽の薄暮を回ってい
た。今日はグリーンエッジで止まる距離感で回りますという、謎の宣言をして。ちょうどゴルフ雑誌の取材で同行していたので、その真意を正すと次のような答えが返ってきた。
「ゴルフのショットは、テニスのサーブと同じ。遠くに飛んだらいいわけでなく、これ以
上飛んでしまったらダメというベースラインがゴルフにもあるのです。そこで、今日はグ
リーンに乗せちゃダメと決めることで、ショットにおけるベースラインを明確にします
」(マーク金井)
見ていると、グリーンにギリギリ届かない距離感で打っていても、ちょっと飛び過ぎてグ
リーンに乗ってしまうケースも少なくはなかった。ゴルフの内容としてはパーオンしたの
だから万々歳だが、その日のマーク金井としては、これは“フォルト”だ。ベースラインを越えてしまったわけだから、確かにそうである。
一方、テニスコートにはベースラインの他に、サービスラインというものもある。サーブ
はネット寄りのサービスラインとプレーヤー側のベースラインの間に入れて行かなければ
ならない。当然、ゴルフのショットにも、これ以上飛ばさないといけないサービスライン
がある。
「僕の場合は、R25ランニングウェッジが使える範囲までは持っていけないとダメ。グリ
ーン手前の状況によっても距離は異なります。それよりも転がせる場所に打つ(外す)と
いう方が優先でしょう」(マーク金井)
我々はピンまでの距離を調べ、必死にその距離を打とうとしてしまうが、マーク金井の感
覚的には、おそらくそのピンまでの距離(ピンハイ)が飛距離の上限(ベースライン)と
いうことになる。ピンを越えるようなショットはフォルトで、たとえグリーンに乗ったと
しても多くの場合は下だりの難しいラインが残る。グリーンオーバーならばなおさら寄せ
ワンに寄せるのが難しくなるからだ。
「グリーンの手前からならたとえ乗らなくても寄せるのはそんなに難しいことではありま
せん。手前から転がして寄せやすいランニングウェッジを持っていれば、なおさらです。
そういうシンプルなゴルフをするために、オリジナルで転がし専用のR25ウェッジを作っ
たのです」(マーク金井)
道具というのは、使用用途が明確になっていないと使いきれないもの。長いゴルフの歴史
の中でチッパーが一時的に流行っても、いまいち定着してこなかったのはまずゴルファー
自身が転がして寄せるイメージを持っていないことと、転がして寄せられる場所にボール
を打っていないからであろう。
「ランニングウェッジが使える場所に打っていく(外す)というのにも、技術が必要です
。だからこそ、まずはアイアンの精度を高めるような練習をすることが寄せを成功させる
近道になるのです。そして、どの方向からなら転がして寄せられるのかを見極めることも
、大切なラウンドのスキルとなります。ガードバンカーを徹底して避けるのも、バンカー
越しでは転がして寄せるイメージが描けないからです」(マーク金井)
ピンハイをベースラインとして、その手前には意外に広い“サービスボックス”が広がって
いる。とりあえずその中にボールを入れるアイアンの精度を持っていれば、スコアを作っ
ていくことは難しくはないということだ。
寄せの話をしているようでいて、最後はミスに強いアイアンの話になったりする。こうい
う話の展開が、マーク金井らしさだと言える。
(書き手/高梨祥明)
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