6月18日からマーク金井はスコットランドへゴルフ紀行に出かけるという。定期的にゴルフが誕生した土地の空気の中に身をおくことは「ゴルフ人」としてのバランスを整えるためにはたぶん必要なこと。我々が日常的に接しているゴルフとスコットランドのゴルフは、かなり隔たりがあると思うからである。
筆者は新たな高反発規制が始まる前年の2007年に、スコットランドに出かけたことがある。R&Aのゴルフルール担当ディレクターに、なぜ飛びを規制するのか?と、その理由を改めて問うためだった。
個人的には全英オープン、全米オープンなどメジャーなどが開催される歴史ある名コースの設計の妙(ゴルフの難しさ、ともいう)が、青天井の飛距離によって失われてしまう。
そんな危機感をゴルフ協会が強く抱いているからだろうと推察していた。実際、インタビューに先立って取材した全英オープン(カーヌスティGL)で、出場選手ほぼすべての飛距離を、数少ないドライバー使用ホール(6番)にて定点観測。セカンドショット地点には大きなフェアウェイ内バンカーが口を開けている特徴的なホールだったが、選手のほとんどはこのバンカーを苦もなくドライバーで越えていっていたことを確認。名コースの設計の妙は、急激な飛距離アップによって失われている。そんな印象を深めたものである。
翌週、セントアンドリュースのR&A本部にて。ルール担当ディレクターのデビット・リックマン氏にカーヌスティで定点観測をしたことと、その結果を伝え「だから飛びを規制するんですよね?」と聞いた。
しかし、彼は静かに笑って次のように言った。
「あなたが取材していたことは我々も知っています。あなたも我々が同じ地点で飛距離を計測していたのを知っているはずです(笑) 確かにあなたが計測していた大会2日目は
多くの選手がフェアウェイバンカーを越えるティショットを打っていました。でも、次の
日は、ほとんどの選手がバンカーに届かなかったのですよ。なぜだかわかりますか? 3
日目は風が逆向きになったからです」(リックマン氏)
スコットランドとはそういう土地。だから一発の、一日の飛距離によって規制をかけよう
と思うことはない。リックマン氏の言葉は明快だった。では、なぜ、飛距離を規制するの
か。話を進めていくと飛距離規制に躍起なのは、アメリカなのだということがわかった。
スコットランドでは飛ぶ日もあれば、飛ばない日もある。そもそも、道具の進化に依存す
るようなゴルフではない。現地のプレーヤーもそれほど飛ばすことに意味があるとは思っ
ていない。それは確かである気がした。
スコットランドのゴルフショップに立ち寄ると、そのことがさらによくわかった。いわゆ
る最新ドライバーはほとんど店頭に並んでいなかった。主流はノーブランド品(コピー品
)か、有名ブランドの中古品だった。それでもポンド表示だからかなり割高に感じた。
気候的にも、コース的にも飛ばしに躍起になる意味はない。加えてクラブはめちゃ高い。ゴルフ発祥の地であるのに、大手ゴルフメーカーが育たなかった理由が理解できた。我々が日本やアメリカで接している飛ばし至上主義のゴルフが、ゴルフの全てではないことを、ゴルフの生まれ故郷に行って理解したのだ。
飛び主義を否定するのではなく、環境に応じてさまざまなゴルフがあっていい。そう思うことができた。スコットランドのリンクスをまわる地元ゴルファーは、たしかに最新ではないゴルフクラブを使っていたが、彼らの自前手引きカートは素晴らしく最新だったのが印象的だった。
マウンドの上から手放しでカートを自走させてもバランスを崩して倒れてしまうことがな
い。日本では見たことのない高性能な手引きカートだった。
必要は発明の母。
プレーヤーが望む最新のゴルフ道具も環境、プレースタイルによって大きく変わる。マーク金井はこの夏のスコットランドで、何を感じ、どんなアイデアを持ち帰ってくるだろうか。
(書き手/高梨祥明)
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