「道具は環境によって育まれる」、そんなふうに感じたことがあった。
それは取材旅行に行ったスコットランドでリンクスコースをプレーした時に痛感したことだ。
セントアンドリュースのオールドコース、ニューコースといった著名なコースもそうだっ
たが、その後に行ったより牧歌的なコース、「クレイル・ゴルフィングソサエティ・バル
コミー」なども、とりあえずボールが目で確認できる位置にティショットを置いておきた
い。それが楽しくラウンドを“続ける”には、最善の策だと感じるリンクスだった。
もちろん、最初はドライバーを振り切っていたが、ナイスショットしたはずのボールがセ
カンド付近に行っても見つからないことが続いた。たとえフェアウェイの幅に打っていっ
ても硬い地面と傾斜によって膝丈の草の中へと運ばれてしまう。
いい当たりだが、決してナイスショットではない。
見えないところには飛ばしたくない、ドライバーを打ちたくない。飛ばしたって意味がない。ホールを重ねるうちにその思いが強くなっていったことを覚えている。リンクスを回るうち、なるほど、だからゴルフ発祥の地なのにメジャーなゴルフブランドが育たなかったのか、と合点がいった。
ゴルフの生まれ故郷では、「1ヤードでも遠くへ! 」を追求しても、ピンチになる確率が高いし、飛ばしたくなるほどコースの距離も長くない。オールドコースでは、バックティから打っていると巡回マーシャルに「君たちはプロゴルファーか?」と言われてしまったが、これだって飛ばして、なおかつフェアウェイにボールをキープできる技術など持ってないだろう? だったら前からセーフティにやれよということだ。天気だって、風だって目まぐるしく変わるし、飛ばしたって意味ないだろう。そう言われている気がした。
そんなことを、先日、マーク金井と雑談していた時に思い出していたのだ。雑談のテーマは、旅先で初めて回るコースでは何を大事にしているか? ということだった。マーク金井は次の3つをキーポイントとして挙げた。
・ボール一個で18ホール回る(OB、ロスト、池ポチャは絶対しない)
・ダボは叩かないように心がける
・3パットはしないように心がける
もっと具体的にいうと、パー3以外のホールではティショットを必ずフェアウェイにボー
ルを運ぶ、すべてのショットで決めた距離よりも絶対に飛ばさない(オーバーはミスショ
ット)、寄せツーを目指す。そうすればコースが難しくてもやさしくても、上記の3箇条
が達成でき、いつものペースで回れるわけである。
そういうマーク金井とて、若い時はティショットでは1ヤードでも遠くに飛ばそうとし、
パー5では2オンを狙い、アイアン、ウェッジでは常にピンそばを狙っていたという。だ
からこそ、それを叶える可能性のある進化したゴルフクラブに興味を持ち、“人間試打マシーン”になっていったのだ。
しかし、30年後の今、心がけているのは、狙いよりも決して“飛ばさないゴルフ”である。
ドライバーでも必ず飛距離の上限を設定し、それ以上は打たないゴルフを目指す。アイア
ン、ウェッジでもカップよりも奥に飛ばさないからこそ、悪くて寄せツー、良ければ寄せ
ワンが獲れるのだ。
マーク金井は6月、スコットランドへゴルフ旅行に出かけるという。4年ぶりの今回はスコットランド最北に位置するロイヤル・ドーノックGCなどを巡るそうだ。
ドライバーの距離をコントロールできる短尺スチールドライバー、グリーン手前からの寄
せをイージーにする「ランニングウェッジR25」などは、たぶんスコットランドでプレー
する時には相当役に立つだろう。環境や目指すゴルフによって必要なゴルフ道具の形が決まっていく。
必要は、発明の母である。
(書き手/高梨祥明)